流し目のゆうの物語 ~夜のとばりの中 その1

最後の夜だった。
明日の15時、平和を取り戻したログレスは終了してしまう。
ログレスは、世界が荒廃した時に現れる幻の国。
平和を取り戻す・・その力をもった勇者が何人も育つと役割を終え、消えてしまうのだ。

ログレスの消滅を迎え、ゆうと、その面々は、山・森・遺跡・・・それぞれの秘境の奥にいる亀を討伐してきた。
最後に神殿の亀を倒し、ログレスとサヨナラをしよう。
が、結果は破れた。
初めてで狩れるような、やわな相手ではなく、敗北をしたのだ。
敗北後、それぞれのメンバーは、それぞれのアジトに帰る。

補助役・・・火力のないナイトで来てもらった星の民の彼女は、ゆうが送ることにした。
もとより、その約束で討伐に参加してもらっている。
「残念だったね・・・」
足取りは重いのか、軽いのか・・・途中、凍てついた体を何度もヒールしてもらった。
(最後で負けてしまったか・・・)
ゆうは、ふーっと、大きなため息をついた。
そして、上を向く。
と、真ん丸な月を見つける。
神々しくも見惚れてしまいそうな美しさで、星の民に教える。
「本当だ!」

「ゆうさん、月が好きって言ってましたもんね・・・」
「月・・もだけど、空が好き。雲がね・・・あんな風に生きてみたい」
星の民は、ゆうのクラン名を思い出した。
「ゆうさん、少し寄り道をするお時間はありますか?」
「寄り道?」
「うん、星がきれいに見えるところがあって・・・そして、ゆうさんにお願いが」
「お願い?」
星の民は小さくうなづいた。
いつもなら、まっすぐにアジトに帰るところだが、もう明日に備える必要はないのだ。
うなづき、案内をしてくれる星の民についていく。

雪山へ・・・
みんなで集まって、また募集に参加しながら、ここでレベルあげした毎日が懐かしい。
そんなことを話しながら、星の民と歩く。
星の民はペンギン語を駆使し、ワープペンギンに雪山の北へ案内され、ゆうはそれについていく。

「ここから先に行きます」
案内されたさらに北を星の民は指さした。
ここから北は・・・途端に雪深くなる。
ログレスを訪れた勇者でさえも行く手を阻まれるほどの雪の壁だ。
「その前に・・・」
星の民は、パーフェクトダイナマジロ二号を向く。
「わたしが・・・」
言ったゆうを制して、星の民が言う。
「メルトを持ってきています。このくらいならナイトのわたしでも」
ゆうは踏み出した足を戻し、「どうぞ」と促す。
言う通り、瞬殺だった。
「ダイナマジロを倒すのも最後ですね。ゆうさんも倒します? メルトは、まだありますよ」
ゆうは首をふる。
自然と、Pダイナマジロのコア集めの頃を思い出す。
5、60万ポロになるのだ。
自分には、何度やってもつかなかった。

「さぁ、行きましょう」
星の民が言う。
と言っても、目の前には雪の壁が迫る。
踏み出せば、パフパフの雪に沈んでいくのは明白だ。
「これを・・・」
星の民が、草鞋を取り出した。
「かんじきのようなものです。これなら進めます」
ゆうが恐る恐る足を踏み出すと、なるほど、10センチほど沈み、一瞬不安になるが、沈み込みはそこでとまる。
「ねっ」星の民が笑った。
ゆうがうなづく。

勾配を登り、下り・・・星の民についていき、たどり着いたのは、見たことのない場所だった。

「ここっ! ゆうさん、言ってくれたよね。空を眺めて暮らす星の民の生活が羨ましいって。いつか、連れてきたいと思ってた」
ゆうは朧な記憶の中で、確かに言った、と思う。
見上げると、満点の星が空を覆っていた。
「すごい・・・」ゆうの口からこぼれた。
星の民がうなづきながら、笑う。
「そうだ、いいものを」
「いいもの?」
「ええ、北の空を見ていてください」
ゆうは頷き、視線を星でいっぱいになった北の夜空に向けた。
星の民が、軽く「ひゅー」と口笛を吹く。
と、次の瞬間に、一つの星が光り、流れ始める。
と、流れ星なら、消えてなくなりそうだが、その星は二人の頭上のあたりまで近づくと、スピードを緩め、うろうろとする。
星の民が、もう一つ口笛を吹くと、ちょうど頭上に来て、とまり、一層輝いた。
ゆうが目を丸くしていると、星の民が笑う。
「ふふふ、わたしのペットです。二つの星を子供の時に預けられ、大切にしてきました。一匹は寝ているようです。かわいいですね」
「ペット・・・?」
「わたしたち星の民は星を操り、星から世界の平和を願うことが業です。わたしのペットの二匹は、普段は誰にも見えないような、輝きの小さな星。小犬座を担い、いつもはひっそりとしています」
言葉を失うゆうを見つめ、星の民は満足げな顔を浮かべる。

「空いっぱいに星を流すこともできますよ」
「流れ星?」
「でもできますが、人の愛を星に託すのです。あの町やこの国。いつも誰かが誰かを愛しています。その愛を、星に託すのです」
ゆうには、言ってる意味が分からない。
「やってみますよ」
星の民は横長の笛を取り出すと、吹き始めた。
しばらくすると、これまではみられかった星が現れ始め、流れる。
一つ・・二つ・・・あっという間に、夜空が流れ星でいっぱいになる。
「誰かの愛が誰かに・・・空を飛び交い続けます。素敵ですよね。平和の証拠です」

数分、星の民の言う「愛」に見惚れていたゆうに星の民が話しかける。
「ゆうさんの故郷から、オリオンはみれますか?」
「オリオン・・・?」
見れる。勇敢な星座として、冬に空に煌めく。ゆうは頷いた。
「ログレスでは、解放されてるエリアからはオリオンが見れないのです。ですが、ここでだけは見れるのです、あちらです」
星の民が指をさす・・が、どの星がどの星なのかがゆうにはわからない。
ゆうの表情から察した星の民が笑った。そして、続ける。
「明るい輝きを放つオリオンの中で、一層輝く星があります。その星がペテルギウスです」
ゆうが小さくうなづいた。
「ペテルギウスに、わたしたち・・と言っても、わたしと仲の良いものの数人でですが、ある記憶を凍結しました。凍結した記憶を溶かすことは、ログレスから見るペテルギウスの角度からしか、できないのです。ようやく、ここが分かりました」
「記憶の凍結・・・?」
ゆうは、星の民と出会ってばかりの頃に、彼女がログレスに来た目的が「星に凍結した記憶を解放すること」と言っていたのを思い出した。
「はい、ゆうさんにお願いというのが・・・わたしが記憶を溶かすので、その記憶の差し替えを行ってほしいのです?」
「わたしが?」
「ええ、ゆうさんしか頼めなくて・・・。各属性を操れて、刻を司る武器を持っている人にしかできないので・・・」
わたし以外にも、強い属性を持っている人いるが・・・
「あと、ゆうさんは・・・」星の民がにこりとする「散々、面倒を見てきてあげましたので、多少のご無理なら・・・」
「えっ!」
見てきたのは、こち・・・
「ずっと、寂しがりの人だと思ってました」
星の民は、また笑顔をこぼす。
「お願いできませんか? ログレスがなくなってからでも、わたしのペットが星の位置と角度を教えてくれます。お約束をしておき、わたしが溶かした瞬間に刻で記憶の操作を行ってほしいのです」
「ログレスがなくなってから・・・」
ゆうの表情が曇る。
「ご無理を言いましたでしょうか?」
ゆうは少しの沈黙のあとに口を開く。
「聞いてほしいことがあるんだけど、いいかな?」

「流し目のゆうの物語 ~夜のとばりの中」は「その2」に続きます!

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